000112 情報


 ニュース番組を見て、早速「最近xxな事件が多い」と言い出す人がいる。最近医療事故が多い。最近若年層による残忍な犯罪が多い。そうだろうか? はたしてそういうことが言えるだろうか? 気軽な雑談とはいえ、言える、言う、という事について、もう少し慎重な検討が加えられるのが適当なように思われる。

 昔、仕事で某氏と2人で沖縄に行った。着いて早々、偶然見つけたカレー屋に入ったのだが、カレーを食った同行者が「沖縄のカレーは甘い!」と叫んだ。日本に来たばかりの外国人が同じカレーを食ったら「日本のカレーは甘い!」と叫ぶに違いない。地球に来たばかりの宇宙人が同じカレーを食ったら「地球のカレーは甘い!」と言うだろう。しかし、沖縄で食ったカレーが甘かったと言うことと、沖縄のカレーが甘いか辛いかということは、別なのである。

 ニュース番組は、ニュース番組としての基準に従って選択された情報を流しているので、当然、ニュース番組独自の流行や嗜好に影響されている。最近、医療事故が多いだろうか? 実際には、医療事故は昔から少なくない。何かでしくじって数千万円の医療保障を抱えている開業医は、何十年も前からいっぱい居るし、そのための医者向け傷害保険も昔からある。最近多いのは、医療事故ニュースなのである。昔は若年層による残忍な犯罪が少なかっただろうか? 昔は陰湿ないじめが少なかったのだろうか? 老人の記憶には昔の風景が虹色に美しく霞んで見えるものだ。しかし、これらは具体的な証拠が無いように思われる。最近は「自己チューな人が多い」と言う。相互にいじめあうことを巧妙に制度化した江戸時代を別にしても、明治、大正、昭和の日本人が、公共心の点で現在より優れているということが、知性に裏打ちされた情報として、言えるのだろうか? 私の論旨に最も好都合な例は、あまりにもくだらないので簡単に言うが、田舎の国立大学の学生が起こしてもニュース番組に乗らないような事件が、有名私立大学の学生がやると7時のNHKのニュースになる。ある情報に出会えば、そこに含まれていない部分で何が起きているか、想像を働かせなければならない。

 身近な人物からあまりにも没知性的な認識を知らされると、いらいらする。何にせよ、あることが事実として言えるかどうか、結論を得るには、少し慎重に検討する必要がある。

2000年1月12日作成 home pageへ