020207 木村太郎


 夕方のニュースで、大分で留学生を親身になって世話している人が韓国人と中国人の留学生5人組に強盗目的で殺されたというのをやっていた。最後に木村太郎が「留学生が犯罪者になったのではない。留学生の中に犯罪者が混ざっていたのだ。留学生の身元をもっと充分に検査すべきだ。」ということを言っていた。いい大学も出て、収入も充分にある木村太郎であってみれば、自分が犯罪者にならない理由は、先天的後天的に自分に非犯罪者たる素質が備わっているからだと考えたくなる、その気持ちは分かる。しかし、事実は違う。

 我々は、創業に血塗られた社史をもつ大企業が現在ではアイドルを使ったテレビCMをしているのを知っているし、かつては人気コーラスグループの一人が窮してのち盗難で捕まったことも知っている。こういう事は特殊な事情ではない。犯罪者が元人気グループだったことは特殊かもしれないが、本当に窮してしまった人物が犯罪者になることは、むしろ普遍的なことだ。犯罪者の素質などというものは存在しない。個人の状況が、人を犯罪者にするのだ。

 木村太郎が言うところの、中国人留学生の身元を選別するというのは、要するに北京か上海の金持ちの師弟だけを留学させろという意味になるのだろう。中国では出身地は国籍も同然で、北京人、上海人であるということは特別な権利になる。たとえば海外渡航の自由度も違い、就職の条件もずいぶん違う。私は北京で、地方出身の学生を何人も知った。国営企業の社宅の家賃は一ヶ月50元とかなのだが、地方出身の学生や勤め人は国営企業には就職できない場合が多く、1000〜2000元の家賃を払って生活している。これらの賃貸物件は国営企業の社員が社宅を又貸ししているものも多い。700元の給料でどうするのだろう(北京人なら同じ学校を卒業しても3000元の仕事にありついたりするのだが)かと思うが、友達と一緒に住んだりして、なんとか生きている。ほんとに、なんとか生きている、これからどうするのだ、と思ってしまうような人が、いっぱいいるんだ。そういう人たち、地方から出てきて、親の仕送りも当てにならない(学生がスナックでバイトする給料が両親の収入より高かったりするのだから)人たちが、将来のチャンスをつかむ方法が、留学なんだ。留学経験があると、地方出身者でも、いい仕事に就けるかもしれない。もう一つは、留学中にアルバイトして貯金できれば、帰国後の資金になるわけだ。3000元の給料と言っても5万円にも足りないんだからね。

 そんなわけで、留学生の家柄を調査するなどというのは、幸せに育ったお方の勘違いで、逆に、環境に恵まれなかった人にこそ、留学が必要なんだ。現実の留学生にとってこれはひどい言い方かもしれないが、気の毒な人たちを将来犯罪者にしないために、彼らを留学させる必要があると言っていいぐらいだと思う。1千万人以上居る国民の(中国人などは人類の1/5だ)、何万人も居る留学生の中で起きた、たった一つの犯罪を取り上げて、今後の留学生選抜はどうあるべきだなんて、おかしいんじゃないの?

 70年近く前、日本の国家公務員が大挙して中国に出張したことがあった。その中には、略奪や強姦を事とした日本人もいっぱい居たんだが、彼らが犯罪者の素質を持っていたと思うだろうか? 否。異郷、軍隊、戦争・・・。境遇が、人を犯罪者にするのだ。時間がたてば、本人もけろりと忘れている。犯罪者の性質などは存在しない。境遇が、人間を犯罪者にするのだ。

2002年2月7日作成 home pageへ